自律神経を整える生薬の一つに桂枝(けいし)があります。
それは以前こちらのブログでも書かせていただきました。
このブログを読むと、桂枝(けいし)=シナモンを毎日たくさん摂取すると自律神経の治療になりますね?と治療の合間によく質問を受けます。
結論から申し上げると、この桂枝(けいし)=シナモンだけを毎日を取り続けて治療にはなりません。
シナモンのような生薬を日常的に身体へ取り入れることは自律神経にとってはとても良いことではありますが、これはセルフケアであって治療とは違います。
では、実際の治療の現場では、桂枝(けいし)=シナモンをどのように扱っているのでしょうか。
そこで、今回は『植物である生薬が漢方薬という治療薬へ』と題して、
・臨床の現場でどうやって桂枝(けいし)=シナモンを使って治療に応用しているのか
・生薬と漢方薬の使い分けはどうしたらいいのか
・漢方薬をどんな風に学んでいけばいいのか
・漢方薬が生薬の複合剤である理由とは何か
について皆さんと考えを共有していこうと思います。
現在、
・漢方薬について興味のある方
・漢方薬をどうやって勉強していいか分からない方
・当店で行っている漢方治療に興味を持っている方
・将来漢方薬の仕事に携わってみたい方
は、ぜひ最後までご覧いただけると幸いです。
〜〜〜〜目次〜〜〜〜
1、生薬と漢方薬の違い
2、陰極まれば陽となし、陽極まれば陰となす
3、生薬の最大の特徴:複数の効果を持つ
4、使用目的を明確化して効果を最大限引き出す生薬の組み合わせ
5、楽しみながら漢方薬のレシピを覚えていく
6、まとめ)漢方薬は治療、生薬は日常的に取り入れるセルフケア
1、生薬と漢方薬の違い
そもそも生薬と漢方薬の違いはなんでしょうか。
漢方薬とはいくつかの生薬を組み合わせて効能効果を明確にした薬を指します。
生薬とは、植物の中でも日本薬局方という薬の基準をまとめた本に記載されている基準を満たした薬用植物のうち薬として効能効果を持つ部位のみを一部分を加工したものを指します。
生薬とは、植物の中でも日本薬局方という薬の基準をまとめた本に記載されている薬用植物のうち薬として効能効果を持つ部位のみ、つまり一部分を加工したものを指します。
一言で言うと、
・生薬は、薬用植物の一部分を加工したもの
・漢方薬は、生薬の寄せ集めて効能効果を高めた薬
と言い換えることができます。
では、なぜ漢方薬は生薬を寄せ集める必要があるのでしょうか。
薬としての効果があるなら、生薬を一個で使用しても問題ないはずですね。
今日は、そんな疑問・謎に迫って行こうと思います。
2、陰極まれば陽となし、陽極まれば陰となす
中国の古代医学書に『陰極まれば陽となし、陽極まれば陰となす』という言葉があります。
解釈の仕方は人によって異なりますが、良いこともやり過ぎると悪い事へ繋がっていき、悪いことが続けば必ず良い事が起こってきます、という解釈が多いです。
つまり”何事もやり過ぎずに、ほどほどに・・・”という意味を指しています。
実はこの言葉は、生薬にも同じことが言えます。
冒頭で申し上げた桂枝(けいし)=シナモンという生薬があります。
この生薬を運用していく上で最も重要なキーワードが『冷えのぼせ』です。
『冷えのぼせ』という状態は、手足が冷たくなってしまって、顔より上部がとても熱くなった状態を指します。
この病態は身体の熱が、手足から熱が抜けて、頭部に熱が偏っている状態で『熱の分散』が起こっていると言えます。
この病態の症状としても、頭痛やイライラ、四肢闕冷などと医学書には記載されています。
桂枝(けいし)は、この『冷えのぼせ』の人に対してゆっくりと体から発汗をさせて分散してしまった熱を圴一に整えてくれる作用があります。
しかし、これを毎日大量に摂取してしまうと発汗し過ぎてしまい、身体から熱が抜けきって、身体全体を冷やしてしまう要因になります。
ですが、治療で行う時は全身への効果を急速に利用したいので、大量の生薬を使用しないといけません。
しかし、大量に摂取すると発汗し過ぎてしまい、逆に身体が冷えてしまいます。
『陽極まれば陰となす』とはこのことで、程よい発汗が必要になってくるのです。
この時に、体を冷やしすぎない目的で桂枝(けいし)の作用を妨げない別生薬を加えて治療をスムーズ行おうと先人たちは考えました。
つまり、桂枝(けいし)の大量摂取による体の冷えを回避する目的で別の生薬を組み合わせているのです。
一言で言うと、
・副作用回避の目的
により漢方薬が複数の生薬で構成されています。
これが、漢方薬が生薬を組み合わせる要因の一つです。
3、生薬の最大の特徴:複数の効果を持つ
桂枝(けいし)=シナモンの効果をインターネットで検索すると必ず複数の効果が上がってきます。
医薬品関係の書籍で有名な『株式会社 じほう』さまで出版されている『生薬解説』という書籍を調べても一個の生薬につき複数の効能効果が書かれています。
例えば、今回の題材の桂枝(けいし)=シナモンについては下記のような記載になっています。
〜〜〜〜『生薬解説(出版:株式会社じほう)』より引用〜〜〜〜
・現代における運用のポイント
①発汗下表作用(はっかんげひょうさよう)
②降気作用(こうきさよう)
③駆瘀血作用(くおけつさよう)
④鎮痛作用(ちんつうさよう)
・主治:感冒による頭痛・肩背部・四肢・関節の疼痛、胸痺(きょうひ)、生理不順
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用終了〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
上記のように1個の生薬に対して複数の作用があります。
この理由は、桂枝(けいし)=シナモン自体にも多数の成分が含まれているからです。
桂枝(けいし)=シナモンの成分の話をすると、必ず主成分である『シンナムアルデヒド (cinnamaldehyde)』の話は得意気にする方がいます。
しかし、他の成分のことをあまり認知されていないのが現状です。
基本的に主成分の話で話を進めていくことが多いので、深く勉強していないと他の成分の話は全く認知されていません。
ですが、桂枝(けいし)の成分は数十種類以上ある、と言われています。
ただ調べていくと成分の数だけ作用が出てくると思いますのでキリがありませんが、そのうち人体への作用が大きいものだけを集めると上記のように5〜10くらいの作用に集約され各々の書籍に記載されています。
では、この複数ある生薬の作用を一体どのように薬として人体へ働きかけるのでしょうか。
薬として扱うには一つの作用・目的に絞らないと効果的に治療を行うことができません。
実は、そこにも複数の生薬を組み合わせる秘密が隠されています。
4、使用目的を明確化して効果を最大限に引き出す生薬の組み合わせ
「副作用回避」の目的で複数の生薬が組み合わさっているが、
もう一つ生薬を組み合わせるのにとても大切な要因があります。
それは、「効果を高める」という目的です。
桂枝(けいし)=シナモン一剤では、いろんな作用があるので治療としては使いにくいです。
治療というのは目的をしっかり持って治療計画を立てて治療を行います。
従って漢方薬にはきちんとした目的が必要になります。
例えば、頭痛や節々の痛みがなく発熱だけの風邪を患らった人がいたとします。
目的は、熱を下げることなので目的は”解熱”ですね。
桂枝(けいし)の効能である”痛み”など他の効果は必要ありません。
単純に熱を下げればいいだけなので、発汗させて余分な熱を取り除けば治療は終わります。
従って、上記の表の通り『麻黄(まおう)』か『生姜(しょうきょう)』を組み合わせることで”解熱”が行えます。
これが、皆さんがよく知っている葛根湯という漢方薬に含まれる組み合わせです。
葛根湯:葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草
例えば、リウマチで体中の痛みを訴えている人がいるとします。
目的は”痛み”をしっかり取り除く事ですので”鎮痛”になります。
同じように、桂枝(けいし)の効能である”発汗”など他の効果は必要ありません。
従って痛みを取り除く組み合わせは、上記の表から『附子(ぶし)』を組み合わせます。
附子(ぶし)は、トリカブトの毒を除去した生薬で、体を温める作用が非常に強い生薬です。
桂枝(けいし)と組み合わせると体を温めて痛みを取り去る作用が強くなり”鎮痛”という効果になります。
桂枝附子湯(けいしぶしとう)という有名な漢方薬がありますが、これでリウマチに応用すると効果的な薬です。
桂枝附子湯(けいしぶしとう)を知っている医師や薬剤師はよく勉強されている方だと思います。
このように生薬を組み合わせて治療の目的を明確に絞っていきます。
すると短時間で効果を最大限引き出すことが可能になっていくのです。
時間をかけていつまでもダラダラ治療していると、病気が進行して治療が間に合わないケースも多々あります。
それを回避するための先人たちのアイディアがたくさん詰まっているのが漢方薬です。
5、楽しみながら漢方薬のレシピを覚えていく
漢方薬が複数の生薬を組み合わせる理由は次の二つになります。
①副作用の回避
②目的を絞って治療効果を高める
しかし、たくさんある生薬なのでその組み合わせは膨大な量になります。
『生薬解説(出版:株式会社じほう)』に掲載されている生薬だけでも300〜400種類あります。
そのうち主要な生薬だけでも100種類前後はありますので、その組み合わせはものすごい数になってしまいます。
これを一字一句全部覚えていくのは本当に大変な作業です。
覚え方に正解はないのですが、僕は英語の熟語のように覚えていきました。
例えば、take=「与える」という単語があります。
・takeにoffという単語を組み合わせると「離陸する」という意味に変わります
・takeにafterという単語を組み合わせると「似ている」という意味に変わります
組み合わせる前置詞の種類に応じて、各々の意味が変わってきます。
どこか生薬と似ている感じがあったので、昔の記憶を辿っていってこういう覚え方を行いました。
他にも、生薬の組み合わせを歌のように考えて覚えていく人もいますし、
実際に手に取り味わって五感で感じながら覚えていかれる方もいます。
自分の得意な方法があると思うので決まりはありませんが、
どんなことも楽しみながら覚えていくと良いかな、と思います。
6、まとめ)漢方薬は治療、生薬は日常的に取り入れるセルフケア
漢方薬は①副作用の回避②治療効果を高める、という目的で複数の生薬を組み合わせています。
したがって、漢方薬はあくまでも治療薬としての意味合いが強いものです。
目的をしっかり持って、効果的に効率的に治療を進める上ではとても大切な道具の一つです。
いざという時に大切に、そして適切に扱っていくとよいと思います。
そして、桂枝(けいし)=シナモンなどの単味の生薬は、治療目的にはなりません。
あくまでも生薬はセルフケアとしての位置付けになるので日常の食事の一部に取り入れると良いかと思います。
理由としては単味ですと、目的とした効果を出すには難しいですし、無理に効果を出そうと量を増やすと今度は思いもよらない症状に悩まされたりするためです。
従って、少しずつ影響がない程度に入れていくことで少しずつ病気や怪我に負けない体づくりにのサポートになっていければいいかと思います。
今回は、『植物である生薬が漢方薬という治療薬へ』と題して、漢方薬と生薬の違いについてお話させていただきました。
みなさんの健康生活が少しでも向上することを心より願っております。