「漢方薬って、じっくり飲まないと効果が出ないんでしょう?」
多くの方が、そう思っていますよね。
医療従事者の中にも、同じような誤解をしている人が少なくないのが現実です。
だから、あなたがそう思っていても、なんら不思議ではありません。
でも、本当にそうでしょうか?
実は、医療の現場では、漢方薬が驚くほどの即効性を発揮する場面がたくさんあります。
◯突然のこむら返りには、芍薬甘草湯が瞬時に痛みを和らげます。
◯インフルエンザには、麻黄湯が抗インフルエンザ薬と同等か、それ以上の即効性があり効果的に示すことも。
◯大建中湯は術後の腸閉塞の回復に即効性を示します
◯手術中に脳の圧力が上がった時には、五苓散が使われるほど、その効果は素早く現れます。
このように、漢方薬は「今すぐ何とかしたい」という切羽詰まった状況で、確かにその力を発揮しています。
そのメカニズムについては様々な書籍で解説されていますが、先日私も読んだ『東洋医学はなぜ効くのか』という本が、とても分かりやすかったので、もし興味があれば手に取ってみるのも良いでしょう。
歴史が教えてくれる「薬漬け」から抜け出すヒント
なぜ、こんなにも即効性がある漢方薬に対して、「長く飲まないと効かない」という思い込みが広まっているのでしょうか。
その答えは、歴史の中に隠されています。
今回は、古代の医学書である『傷寒論』に記された最も基本的な漢方薬の一つ、”桂枝湯(けいしとう)”の条文を丁寧に読み解くことで、
✅歴史的な書物の中に、私たちの思い込みや勘違いから抜け出すヒントがある
ということを、皆さんと一緒に探っていきたいと思います。
歴史の事実を知ることは、私たちが抱える思い込みや勘違いを解きほぐす鍵となるだけでなく、今回の大きなテーマである「脱薬漬け」にも深く関わってきます。
もしあなたが今、
✅病気のデパートのように、たくさんの薬を飲んで困っている。
✅「一生この薬を飲み続けないといけないよ」という心ない一言で、心を痛めている。
✅薬をやめたいけれど、どうすればいいのか分からない。
✅薬を続けることで起こる副作用に悩まされている。
と感じているのなら、ぜひ最後まで読み進めてみてください。
〜〜〜〜〜目次〜〜〜〜〜
1、削ぎ落とすほどに、効果は高まり、即効性は増す
2、『傷寒論』という書物と『桂枝湯』という漢方薬の関係性
3、桂枝湯は、一包服用すると風邪が治る?
4、愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
1、削ぎ落とすほどに、効果は高まり、即効性は増す
冒頭で触れた即効性のある漢方薬には、ある共通点があるのですが、お気づきでしょうか?
芍薬甘草湯は2種類、麻黄湯は4種類、五苓散は5種類、大建中湯は4種類・・・・・
そう、これらの漢方薬はすべて5種類以下の生薬で構成されているんです。
実は、構成生薬が少なければ少ないほど、その漢方薬は効果が高く、即効性があるという特徴があるんです。
✅数が少ないほど効果が高く即効性が増す」
これは、自然療法を学んだ方なら一度は耳にしたことがあるかもしれません。
ハーブやホメオパシー、鍼灸・漢方など、治療を行う際に多くの種類の薬草、レメディ、あるいは鍼灸のツボを使いすぎると、体の治癒力が分散してしまい、効果が弱まったり、治療の速度が遅くなったりすると言われています。
だからこそ、効率的な治療のためには、使う生薬やツボ、レメディをできる限り絞り込むように指導されるのです。
✅削ぎ落とせば、削ぎ落とすほど効果が高く、即効性が増す
これは、鍼灸・漢方だけでなく西洋医学も学んできた私が、自分なりに解釈して作った造語です。
自然療法を学んだ方であれば、”削ぎ落とす”ことが効果を高め、即効性を増すために必要な手段であると理解できるでしょう。
しかし、この考え方は、実は普段私たちが目にしている西洋薬にも当てはまりますよね。
西洋薬はもともと天然の生薬から有効成分を検出・抽出し、それを化学的に合成することで、余分な成分を削ぎ落とし、効果を高め、即効性を増して薬としての効果を発揮しています。
治療道具として扱われる薬やサプリメントの共通点は
”余分なものを削ぎ落として効果を最大化する”
という点になりますね。
これは、まさに人間の知恵と技術の結晶であり、古代の教えを基に考え出されたものなのかもしれません。
ただ、治療効果を高める目的で「削ぎ落としすぎた」ことが、結果として「薬漬け」という現状を生み出しているとしたら、私たちはもう少し深く、歴史という名のプロセスを丁寧に読み解く必要があるのかもしれません・・・・。
2、『傷寒論』という書物と『桂枝湯』という漢方薬の関係性
漢方の即効性を証明する上で、最も参考にすべき文献の一つが、『傷寒論』という書物です。
この書物は、古代に流行した感染症や伝染病に対処するために書かれました。
感染症にかかってしまったら、のんびり治療している暇はありませんよね。
即効性のない薬では治療にならないため、『傷寒論』に書かれている漢方薬のほとんどは、急性期の対処のための薬であり、それゆえに即効性が担保されているのです。
そして、この『傷寒論』の中で一番最初に書かれていて、最も重要であり、基本中の基本とされる漢方薬が『桂枝湯(けいしとう)』です。
桂枝湯は「発汗法」という漢方薬の治療技術の一つで、風邪の初期治療として、幅広い年齢層に安全に使える漢方薬と言われています。
妊婦さんや子ども、お年寄りなど、誰でも使えるので、この機会にぜひ覚えてみてはいかがでしょうか。
「発汗法」については、以前の記事で詳しく解説していますので、そちらも参考にしてみてください。
3、桂枝湯は、一包服用すると風邪が治る?
さて、『傷寒論』に記された桂枝湯の条文を読んでみましょう。
『傷寒論・太陽病上編・第十三条』
- 原文: 「若し一服して汗出て病癒えれば後服に停む、必ずしも剤を盡くさず」(傷寒論・太陽病上編・第十三条)
- 読み方: 「もし(若し)イップク(一服)してアセ(汗)イデ(出)てヤマイ(病)イエ(癒)ればゴフク(後服)にトド(停)む、必ずしもザイ(剤)をツク(盡く)サズ」
- 意味: 「もし桂枝湯を一包服用して汗が出て、乾燥肌が潤う程度に皮膚の湿度が保たれれば、病気が治っていきます。その後、処方された全ての薬を服用しなくても良いですよ。」
この条文の解釈は人によって異なりますが、私自身はシンプルに
✅桂枝湯を1回服用するだけで、風邪が治ることがありますよ
と捉えています。
私自身、西洋薬に携わる仕事を何年もしてきましたが、1回の服用で風邪が治る、という薬には滅多にお目にかかることはありません。
もしあったとしても、副作用が強かったり、お年寄りや体の弱い方には使えないといった制約があることが多いです。
その点、桂枝湯は副作用の報告で死亡例や後遺症が残るようなケースもなく、安全に使える薬です。
まるで家庭に置いてあるような安全な薬の一つとして、誰でも扱えると言えるでしょう。
もちろん、『傷寒論』の原文に書かれている当時の薬と、現在、店頭に並んでいる桂枝湯が全く同じ薬かというと、そうでない可能性もあります。
自然の生薬なので、原産地が異なれば効果が変わることもありますし、時代に応じて生薬の品質も変化します。
もし『傷寒論』と同じ薬を完璧に再現できれば、本当に1回服用しただけで効果が出る、という話になるでしょう。
ただ再現性の問題はありますが、この条文から読み取れることは
✅1回の服用で効果を示す漢方薬がある
という事実が過去にあったという揺るぎない証拠になりますね。
その事実を基に考えると、即効性がない、という認識は、やはり不確かな事実として捉えるのが自然ではないでしょうか。
4、愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
ドイツの鉄血宰相ビスマルクの言葉に、こんなものがあります。
「愚かなものは自分の失敗や成功などの直接的な経験からしか学ばないため、経験したこと以外は理解できません。
しかし、賢い人は過去の出来事や先人の経験(=歴史)から学ぶことで、より広い視野で物事を捉えて正しい判断が下せますよ」
という意味の言葉です。
さて、私たちが大多数の人が思い込んでいる
✅漢方薬に即効性はなく、長く飲まないと効かない
という認識は、実はすべてが正しいわけではないということが、少しはご理解いただけたでしょうか。
✅漢方薬は、構成生薬の数が減ると即効性が増し、効果も高くなる。
この事実は、まさに「思い込みと勘違いは歴史的事実から解消されることもある」ということを教えてくれます。
今回のブログの最大のテーマである「脱・薬漬け」ですが、
・どうして薬漬けになるのか?
・薬漬けは無知な患者個人の責任なのか?
・意図的に薬漬けを行う医者が悪いのか?
・薬漬けになったらどうやって抜け出したらいいのか?
といった疑問が次々と湧いてくるかもしれません。
そして、それらの謎を解き明かしてくれるのも、やはり歴史的事実なのかもしれません。
私たちが「薬漬け」に対する勘違いや誤解を生まないためにも、私たち日本人一人ひとりが、漢方薬だけでなく、医学の歴史や生物の進化の過程をもっと丁寧に紐解き、正確に歴史を学び、それを次世代へと伝えていく必要性があるのではないでしょうか。