「母子同服(ぼしどうふく)」という言葉をご存じでしょうか。
漢方に馴染みのない方には、あまり聞いたことのない言葉かもしれません。
この言葉の歴史を辿ってみると、今から約470年前、中国・明の時代の小児医療にたどり着きます。
日本では、まだ戦国時代だった頃です。
約470年前の小児医療
1550年、中国・明代の医師・薛己(せつき)は、『保嬰金鏡録(ほえいきんきょうろく)』という小児医療についての書物を著しました。
その後、1556年の『保嬰撮要(ほえいさつよう)』にも、小児の治療について興味深い記述が残されています。
もちろん、約470年前の医学と現代医学は同じものではありません。
それでも古典を読んでいると、今の私どもの治療にも重なるように感じるところがあります。
💡 この解説本を読んで大切だと感じたこと
子どもに症状が現れていても、
子どもの身体だけを見て治療を完結させていたわけではない
ということです。
子どもの身体だけで考えない
『保嬰撮要』巻一「護養法」には、こんな言葉が残されています。
『保嬰撮要』巻一「護養法」
「未病則調治乳母、既病則審治嬰兒、
亦必兼治其母為善」
少し分かりやすくすると、
子どもが病気になる前には乳母の身体を整え、病気になれば子どもの状態をよく診る。
そして必要に応じて、母親もあわせて治療する。
そのような意味になります。
子どもを診ながら、そのすぐそばにいる母親の状態にも目を向ける。
約470年前の小児医療には、すでにそのような視点がありました。
「母子同服」という治療方法
そして『保嬰撮要』には、こんな記述も残されています。
古典に残された言葉
「右水煎子母同服」
古典の原文では「子母同服」と記されていますが、この記事では「母子同服」と表記します。
母子同服とは?
子どもと母親が、
「同じ薬」を一緒に服用する
という治療方法です。
子どもには子どもの薬を、母親には母親の薬を、それぞれ別に服用してもらうという意味ではありません。
子どもに服用させるものと同じ薬を、母親にも服用してもらう。
そのような治療方法が、約470年前の小児医療に記されています。
もちろん、これだけをもって「なぜ母子同服という治療方法が生まれたのか」まで言い切ることはできません。
💡 約470年前の記述から見えてくること
ただ、子どもに症状が現れていても、
子どもの身体だけを見て治療を完結させていたわけではない
ことは、こうした記述からうかがえます。

今の子どもたちを診ていて思うこと
このことは、今の子どもたちを診ていても、どこか重なるところがあります。
風邪のような一時的な不調とは違い、長く続く身体の悩みでは、その子への治療だけでなく、
食事や睡眠、毎日の過ごし方など、暮らしの中で一緒に考えていくこと
が必要になる場面があります。
子どもは、一人で生活しているわけではありません。
家族と暮らし、学校へ行き、友達と関わり、勉強をしたり、遊んだり、ときには悩んだりしながら成長していきます。
そして、その子の暮らしのすぐそばには家族があります。
お父さんやお母さんにも、それぞれの生活があります。
仕事が忙しいときもあれば、疲れているときもある。
なかなか眠れない日もあれば、知らないうちに身体に力が入っていることもあります。
家族はそれぞれ別々の身体を持ちながら、毎日の暮らしの中では、互いに影響しながら生活しています。
だからこそ、子どもに不調が現れたとき、
その子の身体だけで
考えなくてもいいのかもしれません。
「同じ薬を飲む」ことから考えること
母子同服とは、あくまで母親と子どもが同じ薬を服用するという治療方法です。
その本来の意味を、別のものに変えたいわけではありません。
けれど、約470年前にこのような治療方法があったことを知ると、今の治療についても少し考えさせられます。
今の治療に置き換えて考えてみると……
お子さんの身体を整えるとき、
お父さんやお母さんも、ご自身の身体に少し目を向けてみる。
疲れていれば、身体を整える。
ストレスを抱えていれば、その付き合い方を一緒に考えてみる。
そして必要であれば、親子でともに治療を受けてみる。
これは、古典に書かれた「母子同服」そのものではありません。
けれど、子どもの身体だけを見て治療を完結させなかった昔の医家の姿勢を知ると、今の私どもにも通じるものがあるように思います。
子どもの不調を、
子どもだけのものにしない。
お子さんの身体を整えるとき、
お父さんやお母さんも、
ご自身の身体に少し目を向けてみる。
そんな治療の形があっても
いいのかもしれません。
参考資料
・薛己『保嬰金鏡録』(1550年)
・薛鎧・薛己『保嬰撮要』(1556年)
・『日本東洋医学雑誌』65巻3号(2014年)掲載の原典研究
※古典に記された医学的な考え方は、当時の医学思想に基づくものです。本記事では、それをそのまま現代医学上の因果関係として紹介するのではなく、「母子同服」という治療方法の歴史を知るための資料としてご紹介しています。

